いい借金、よくない借金
事業運営においてお金を回していくことは必須です。手持ちの自己資金や補助金などですべて賄うことができれば理想的ですが、現実は借入金を活用するケースも多いと思います。
「借金したくないなあ」「無借金経営に憧れる」、そういった声も聞こえてきますが、借入金を活用するのも経営手腕の見せ所。
今回は「いい借入金」「よくない借入金」について見ていきましょう。
1.そもそも借入金とは?
解説するまでもないと思いますが、借入金とは他者からお金を借りることを指します。借りたのですから当然いつかは返さなくてはいけません。しかも利息が付いてきます。
「返さなければならない」「利息を取られる」、このあたりが借入金のマイナスイメージに寄与しています。
しかしこう考えることもできます。
借入金は数年~数十年にわたってコツコツと返済していきます。返済するのは未来の自分。
ということは、実際は銀行から借りているのだとしても、考えようによっては「未来の自分から前借している」と言うこともできます。
少しお話がずれますが、だれでも「学生のころもっと勉強しておけばよかった」とか「なんであのとき資格に挑戦しておかなかったのだろう」と過去の自分の行為を悔やむことがあります。
いまの自分がもしも過去の自分を手助けできたらどんなによいでしょうか。絶対に成立しえない「もしも」ではありますが……。
ここで借入金のお話に戻ります。
先ほど書きましたように、借入金は「未来の自分からの前借」と考えることもできます。
未来の自分がいまの自分に対して「ここで事業を育てないと後悔するぞ。お金を送ってやるから有効活用しろ」と言ってくれているのだとも考えられます。
2.いい借金、よくない借金
借金をなんだか「よいもの」のように書きましたが、よいものにするかよくないものにするかを決めるのはいまの自分自身。
「こういう場合は借金してもOKだけど、こういう場合はだめ」という基準が存在します。以下で詳しく見てみましょう。
①よい借金の例
たとえば皆様が小さな食品加工場を経営しているとします。
得意分野は一般家庭用の冷凍食品。大手からの委託によるもののほか、小規模ではありますが自社商品も開発しています。
ある日、商品開発担当がものすごく売れそうな商品を開発したとします。価格も手ごろで簡単に調理できてしかも前例がないほどおいしい冷凍食品です。
市場に出してみたところ大ヒット。売切れ続出で品切れが続き、「作れば売れる」という空前絶後の状態だとします。
「作れば売れる」のであれば、工場の増設を考えるのは当然。新しい工場を作れば生産数も倍増し、売り上げも倍増します。
ところが工場を増設するのに1億円必要で、手持ち資金はあまりありません。
この状況で「毎年500万ずつ貯金すれば20年で1億円貯まるな。よし、20年後に工場を増設して、それから売上増を狙おう」と考える経営者はいないでしょう。これでは大きなビジネスチャンスを逃してしまいます。
利息を払うデメリットよりも、売上増によるメリットの方が明らかに大きい場合は借金をしても問題はありません。さっとお金を借りて工場を増設しましょう。
事業を伸ばす。そのために必要な借金は「よい借金」に分類されます。(このような借入金の使い方を「レバレッジ(=てこ)を効かせる」と表現します。)
②よくない借金
では、よくない借金とはどういうものでしょうか。
答えは単純です。「日々の支払いに充てるための借金」、これをよくない借金ということができます。
会社にお金がなくなって税金や従業員の給料が払えない。なんとかするために銀行からお金を借りる。借りたのはいいけれど、返せるのだろうか。
借金のもつ暗いイメージそのものです。こういった借金をしないに越したことはありません。
3.それでも現実は容赦なく…(理想論と現実論)
個人的な話ではありますが、私は実はこの「よくない借金」を大きく抱えていた時期があります。
「代表者紹介」のページにも書いていますが、私は士業の事業のほかに飲食店も経営しています。母が始めた店を、けっこうな額の借金とともに受け継ぐかたちでしたが、この借金がよくない方の借金でした。
母も事業を立ち上げたころは非常な苦労をし、何とか支払いをするためにお金を借りたようですが、事業を回すための借金が事業を苦しめるという悪循環でした。
親子二人三脚でなんとかここからは抜け出すことができたのですが、「借金はこわい」という事実も身をもって知っています。誰だってこんな借金はしたくありません。
しかし、とくにコロナ禍においては、よくない借金だとわかっていても事業所を維持するためにお金を借りざるを得ないケースもあると思います。
できれば避けたい「よくない借金」ではありますが、現実論としてこれが必要となることもあると思います。
次回以降の記事で、なるべく借りやすくする方法について書きたいと思います。
4.余談
私のように親から事業を引き継いだ方も多いと思いますが、事業を引き継ぐと親子間でけんかになることが多くあります。
意気揚々と引き継いでみたものの、意味のない設備投資やその借金が残っていることが判明し、子が親に「なんでこんな無駄な設備投資したんだよ!」とか「親父の借金のせいでおれまで苦しんでるんじゃないか!」etc…
言う子の方も苦しいですが、言われる親も苦しい。事業所が重たい雰囲気に包まれます。
私も「引き継いだ子」ではありますが、心に留めていた言葉があります。どこか外国のことわざだそうです。
最初に井戸を掘った人の苦労を忘れるな
あとから来た人間は、先人が掘った井戸に対してつい口出しをしてしまいがちです。「ここじゃなくてあそこに掘ればもっといい水が出たのに」とか「なんでこんな使いにくい掘り方したんだよ」とか。
しかし、何もなかったところにゼロからものごとを作り上げるというのは大変な苦労があります。
親のした苦労を子は忘れてはならないと思います。けんかになることは仕方ないにしても、親の苦労を尊重することを心がけてみてください。そうすればきっとうまくいきます。