損益計算書と資金繰り表
前回の記事で、融資やリスケの申し込みに必要な書類5点セットをご紹介しました。
①決算書
②事業計画書(経営改善計画予定書)
③損益計画書
④資金繰り表
⑤金融機関別取引明細書
今回は主に「③損益計画書」と「④資金繰り表」についてみてみましょう。
※これら書類は、金融機関側からは直接は提出を求めてこないケースも多いです。しかし事業所の信頼性を担保し交渉をスムーズに進めるためにも、自主的な資料の作成・提出は必須だと言えます。
金融機関は、これら資料の自主作成能力を含めて審査をしてくる場合があります。金融機関側が用意してくる様式はあくまで「最低限のもの」とお考えください。
1.損益計画書
損益計画書とは、損益計算書の変化バージョンです。
損益計算書はPLとも呼ばれ、事業所の一定期間の利益状況を表すものです。家計簿の事業所バージョンみたいな感じですので比較的なじみやすいかと思います。(決算書の一部でもありますのでよくご存じかと思います。)
損益計算書には、いちばん上に売上が記載されており、その下に仕入れが○○円、さらに経費(人件費、光熱費、家賃、減価償却費etc…)が○○円、営業外の損益や税金などが○○円、そしていちばん最後にトータルの差し引きで○○円の損益、というふうに記載されています。
この損益計算書は過去の実績を記載するものですが、これに対し損益計画書は同様の内容について未来の予測値を記載します。
一般的には5年後くらいまでについて、上記の数字がどう変化していくのかを予測値として記載していきます。
金融機関は貸し付けについての稟議書を内部で回す際、担当者の作った損益計画書を参考データとして添付するそうです。担当者は万一の状況も想定し、慎重で控えめな(あるいは悲観的な)損益計画書を作成する場合があります
このような売上などの数値が下がる一方の予測であったら、これを見た上司(貸し付けの最終責任者)はどう判断するでしょうか。
「お金を貸しても返ってこないかもしれない。貸すのはやめておこう」あるいは「貸すのは貸すけど、金額を低めに変更しよう」と判断する可能性があります。
金融機関の担当者がこの損益計画書についてどういった予測値を作成するのかはこちらではコントロールできません。なぜなら担当者はみなさんの事業所の長所について隅々まで知っているわけではないからです。
担当者の理解できていないポイントを盛り込んだ損益計画書は、やはり自社でしか作成できません。
「返す財源はあります。なぜなら売上や利益はこの表のように伸びると予想されるからです」と自社の長所を含めて前向きな数値を示していれば、金融機関も「なるほど、そういう財源をもっているのか」と、貸し付けに前向きな検討をしてくれます。
ただし、なんでもかんでも前向きな数値を入れておけばよいというものではありません。
数値が伸びるには根拠が必要です。その根拠を文書で示すのが②の「事業計画書(経営改善計画予定書)」です。
事業計画書と損益計画書は互いに連動します。矛盾した内容で作成しないように注意が必要です。
2.資金繰り表
③の損益計画書と④の資金繰り表は似て非なるものです。どちらがよいというわけではなく、両方必要とされます。この2つの違いは以下です。
損益計画書 | 発生主義で作成される |
資金繰り表 | 現金主義で作成される |
発生主義と現金主義、この2つはどう違うのでしょうか。例を交えて説明します。
ある工場(A社)が1千万円の売買契約を成立させたとします。5月に商社と売買契約が成立し、6月に商品を製造し、7月に納品、8月に代金1千万円を支払ってもらうかたちです。
●発生主義の場合は、売買契約が成立した時点で数値を記入します。この例で言えばA社は5月に1千万円を帳簿に計上します。ただし実際にお金が振り込まれるのは数か月先の8月です。5月時点で見かけ上は売上が立っていますが、現金はまだ入っていない状態です。
この状況で8月までにいろいろな経費の支払いができずに(現金が回らずに)倒産してしまうのが、いわゆる「黒字倒産」です。書類上は1千万のお金があるにも関わらず、実際の現金がショートしてしまっている状態です。発生主義は、ある意味、書類と実態が一致していないのです。
●一方、現金主義は実態と完全に一致させます。いくら5月に契約が成立したとしても、実際に現金が振り込まれるまでは一切書類上に計上しません。仮に8月に支払ってもらったとしても、それが手形によるものであれば、手形が実際に決済されるまでは計上しません。
入金・出金のいずれについても、とことん「現金の動き」に合わせた書類づくりをするのが現金主義です。
発生主義と現金主義の違いをもう少し詳しくまとめてみました。
損益計算書(発生主義) | 資金繰り表(現金主義) | |
売上 | 入金がまだであっても契約成立時点で記載 | 実際の入金があった時点で記載 |
支出 | 出金がまだであっても契約成立時点で記載 | 実際に出金した時点で記載 |
借入、返済 | 記載しない | 記載する |
減価償却 | 会計上の処理として記載する | 実際に出金を伴う処理ではないため記載しない |
このように現金主義である資金繰り表は、発生主義の損益計算書に比べて、より具体的なお金の流れを実態に即して表現できるのです。
3.キャッシュフロー
キャッシュフローとは、直訳すると「現金の流れ」です。
現金主義で記載した表である「資金繰り表」が表現しているのが、まさにキャッシュフローなのです。
事業所にとってキャッシュフローは何より大切です。いくら損益計算書上で黒字が出ていても、キャッシュがなければ倒産してしまいます。逆に、損益計算書で大赤字だったとしてもキャッシュフローに問題がなければ企業は存続できます。
実際の例で言いますと、私は経営者紹介のページでも書きましたが士業の仕事の他に、家業の飲食店を経営しています。この飲食店は自社物件のため、損益上は「減価償却費」が毎年かなりの額で計上されており、トータルで赤字となることも珍しくありません。
ただし、この減価償却費はあくまで会計上の処理であり、実際の出費を伴うものではありません。損益上は赤字であってもキャッシュフロー(現金)としては黒字であり、「書類上は赤字だけれど貯金の額は増えてる(黒字)」という年もよくあります。
企業にとっては書類上よりも実態、つまりキャッシュフローが何よりも大切だと言えます。
4.資金繰り表を金融機関に提出する意義
当事務所では、みなさまに資金繰り表の作成を強くおすすめしています。資金繰り表にはいろいろな種類がありますが、「日繰り」とそれをまとめた「月次」の2種類の作成が理想です。日々の動きを日繰りで細かく管理し、月次で全体像を把握します。
そして資金繰り表の最大のメリットは、過去の実績をもとに、未来予測を立てられる点にあります。
当事業所が作成する月次資金繰り表には、過去3か月分の資金繰りを記載し、それをもとに今後9か月の予測を立てます。(3か月+9か月で1年分の表を作ります)。そしてこれを毎月毎月更新していきます。
この資金繰り表を作ることで、「資金ショートがいつなのか」がかなり正確に把握できます。それがわかれば、そこから逆算する形で早め早めに動くことができます。
また、売掛、買掛のキャッシュが動くタイミングも記載することで、「一時的な」資金ショートの時期も把握しやすくなります。そして金融機関はこの情報をこそ欲しているのです。これらのお金の動きは損益計算書ではなかなかつかみにくく、入出金タイミングは自社でしかわからないため、金融機関にこの書類を提出すると非常に喜ばれるのです。
たとえば、「2か月後の7月に資金がショートするかもしれないけれど、8月には1千万円の現金が入ります。この7月をしのぐための融資をお願いします」といったことを書類(数値)で表現できれば、金融機関はかなり前向きに動きます。
資金繰り表で現金の流れを示し、返済の財源を説明することで融資やリスケの成功確率は大きく上昇します。
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