決算書の読み方②(貸借対照表)

貸借対照表を苦手にしている方も多いのではないでしょうか。家計簿の事業所版である損益計算書と違い、馴染みのない形式に戸惑う方も多いと思います。実際、私も貸借対照表は苦手でしたが経験を重ねていく中で読み方を身に着けることができました。

貸借対照表には様々な読み方があります。今回は基礎編として「かわい事務所流」の貸借対照表の見方を2つご紹介したいと思います。

1.そもそも貸借対照表って何のためのもの?

前回、損益計算書を家計簿になぞらえて説明しました。そのとき示した家計簿の例では、ある家庭において一年間で150万円の黒字が出ていました。「150万円貯金できたか。めでたしめでたし」で終わればいいのですが、そうもいきません。なぜなら、これだけではまだ家計の状況をすべて把握できたことにはならないからです。

家計簿のおかげで、たしかにこの一年の黒字額が150万円だということは分かりました。しかし、その結果・結論としての、「我が家にはいまトータルでどれだけの財産があるのか」という点はわからないままだからです。もともと一千万の借金があったけど今年150万の黒字のおかげで借金残が850万になったのか、それとももともと2百万の貯金があったところにさらに150万が加わってトータル350万の財産となったのか、それとももっと別の経済状況にあるのかは、この家計簿からはわからないのです。

これを把握するためには、別途「我が家の財産一覧表」を作成する必要があります。家計簿で一年間のお金の流れを把握して、その結果としての、最終日(年末)時点での財産一覧表を別途作ることではじめて家計の状況を正確に掴むことができるわけです。

これは企業においても同様です。損益計算書で一年間の流れは掴んだ上で、別途「期末時点における、我が社の財産一覧表」が必要となります。ざっくり言うと、これが貸借対照表なのです。

2.右下は見ないことにしよう!?

一から始めてみましょう。

ある企業において、期末時点の財産一覧表を作ることとします。財産をひとつひとつリストアップしたところ、現金・預金、建物、機械、車のほか、マイナスの財産として銀行からの借金があることがわかりました。

金額(財産価値)を調べて一覧表にしたいのですが、表がごちゃごちゃしてもよくありません。そこでひとつだけルールを決めることとします。

ルール:プラスの財産を左側にまとめて書く。マイナスの財産は右側にまとめて書く。

このルールを基に「わが社の財産一覧表」を作ると次のような表ができました。

現金・預金 300万円
建物    500万円
機械    150万円
車      50万円
借入金 400万円   


 
3月31日時点のA社の財産一覧表

どこかで見たことのある形となったのではないでしょうか。そうです。この表の形は、貸借対照表の右下部分を省いた形となっているのです。

個人的に、貸借対照表の見方がわかりにくいのは右下部分(純資産)があるからだと感じています。そこで、貸借対照表が苦手な方は思い切って右下部分を手で隠してしまいましょう。

そうすればほら簡単。単なる財産一覧表のできあがりです。これがかわい事務所流の貸借対照表の活用方法その1です。まずはこの使い方を覚えてください。

POINT① 右下部分を隠してしまえば、貸借対照表は「期末時点における財産一覧表」として使える。

2.貸借対照表でお金の出所を知る

貸借対照表はいろいろな活用方法があります。続いて2つ目の活用法です。

先ほど表を作った際、右側にマイナスの財産を書きました。しかしよく考えると「マイナスの財産」というのは不思議です。

左側のプラスの財産はすべて「モノ」として存在しますし、実際手に触れることができます。しかし借金(マイナスの財産)は「モノ」ではありません。400万円の借金というのはあくまで概念上のものであり、借金そのものに手で触れることなどできません。

ということは、実在するという意味での本当の財産というのは、先ほどの表の左側部分のみであるといえます。(この実在する財産のことを、ここではとりあえず「実財産」と呼ぶこととしましょう。)

ということで、わが社の財産一覧表を作る際に、概念だ何だと面倒なことは省いて、実財産だけの一覧表を作ってみましょう。

現金・預金 300万円
建物    500万円
機械    150万円
車      50万円
3月31日時点のA社の「実財産」一覧表

これはこれでわかりやすい表です。グラフの形にするとこうなります。

この表を見て社長さんは「わが社もついにこれだけの資産を作ることができたか」と感慨深そうにしています。しかしこの社長さん、しばらくすると、なぜかそわそわし始めました。小声で「これだけの資産、どうやって手に入れたんだっけ……」とつぶやいています。どうやら、建物や車といった多くの資産を持っていることが分かったものの、どこからそんなお金が出てきたのか、気になってきたようです。

お金の出所は一般的に2種類しかありません。

①もともと持っていたお金

②借りたお金

この2つです。言い換えると、会社というのは「もともと持っていたお金に借金を加え、それらのお金をつかって実財産を手に入れている」ということになります。これを踏まえて、もういちど正式な貸借対照表を見てみましょう。

●左側が実財産です。A社は全部で1000万円の実財産を持っています。

●右側が実財産を手に入れた際の財源(お金の出所)を表しています。もともと持っていた自社のお金600万円(右下)に借金400万円(右上)を加えた合計1000万円で、左側の実財産(1000万円分)を手に入れたのです。

つまり、実財産(左)を手に入れることができた財源は右側に表示されていることになります。別の言い方をすると、右側の財源をつかって、実財産(左側)を手に入れたということができます。

POINT② 表の右側部分は、資産(左側)の財源を表している。

さらに詳しく見てみましょう。

先ほど、右下部分が「わが社がもともと持っていたお金」だと説明しました。この部分は実はさらに次の2つに分けることができます。

 ①会社が生まれつき持っていたお金

 ②会社がいままで何年もかけて貯めてきたお金

この2つの合計が、今年度における「もともと持っていたお金」と言えます。

①は言うまでもなく「資本金」です。会社を設立するためには資本金が必要です。つまり「会社が生まれつき持って出てくるお金(資本金)」が、ここでいう「もともと持っていたお金」の一部になっているのです。

そして②は今まで会社が成長する過程でコツコツ貯めてきたお金です(利益剰余金)。そして実はこの利益剰余金の数字は「損益計算書の当期純利益」を過去年度すべて通算したものなのです。

つまり、損益計算書と貸借対照表はこの部分でつながっていると言えます。この2つは車の両輪みたいなもので、どちらかだけでは意味がないということが、ここでもお分かりいただけたと思います。

POINT③ 損益計算書と貸借対照表は連動している

まとめます。

会社は、「生まれつき持ってたお金」と「いままでの貯金」の合計を自己資本(純資産)とし(右下)、そこに借金を加えて(右上)、それらを使って実財産(左側)を入手しているのです。

これを端的に表現したのが貸借対照表だと言えます。

3.最後に

いかがだったでしょうか。貸借対照表が苦手だった方も少しずつ馴染んでいただけたのではないかと思います。

貸借対照表には様々な活用法があります。今回は基礎についてお話ししましたので、今度は応用についていろいろご自身で調べてみてください。(まずは「自己資本比率」や「流動/固定資産」、「流動/固定負債」などがおすすめです。)

そして次回では、決算書を構成する残りの部分であるキャッシュフロー計算書と株主資本等変動計算書についてお話ししたいと思いますが、実は今ちょっと複数の案件が当事務所に舞い込んできておりまして、そちらにもかなり手を取られております。

次回記事更新は少し日が開くかもしれませんし、更新できても駆け足の説明になるかもしれません。その点ご容赦くださいませ。ではまた次回。

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